【インタビュー】デービッド・アトキンソン氏

国内外の観光客にとって、観光の魅力は主に四つの条件に定義されます。それらは「自然、気候、文化、食」です。観光大国になるためには、この四つ全て揃うことが理想であり、一つだけを整備すれば良いというわけではありません。観光客の趣味は十人十色で、朝から晩まで常に文化に触れていると肩が凝りますし、毎日何時間も食事をとることはないでしょう。 この四条件を一つ一つ考えてみることにします。自然には、綺麗な山や美しい海があり、田園風景、渓谷、滝、野花などがあります。当然ですが、多様化されれば、より多趣味の人々が集まりますので、魅力的な素材が多ければ多いほど観光立国に成りえます。 次に、気候は、温暖であることが基本ですが、暑いところであればビーチリゾートを、雪が降る山であればスキーリゾートを楽しむことができます。 食事も重要な要素の一つですが、一日三回の美味しい料理だけでは十分な条件とは言えず、食間の楽しみも必要となってきます。 最後は文化です。 一般的に、遠い国に旅行すると、普段は文化に余り興味がなくても、直接的に触れる機会が多くなるというデータがあります。文化の奥深い国の場合、ほとんど全ての観光客が一度はその国の文化に触れると言われています。 特に、海外の観光客にとって、日本は様々な面で極めて独特な文化を築いてきたので、日本文化に直接触れたいという衝動に駆られます。若い人は自然と身近にある近代的な文化にとりあえず触れ、ある程度歳を重ねると、それ以外の文化にも触れたくなります。これは日本でも海外でも見受けられることです。10代、20代の若い世代はアメリカに旅行したいと思う人が多く、30代以降は、イタリア、フランス、イギリスに行きたくなる傾向が見られます。また生活に余裕ができると、歴史と文化への興味が次第に湧いていきます。 しかし、残念ながら現代の日本においては、建築や芸術などの伝統文化や歴史を直に体験したいと思っても、昔ながらの古き良き町並みは減少し、日常生活も大きく変化したため、日本的な要素も一般的に少なくなりました。時代の移り変わりによって、日本古来の伝統的な家屋なども稀有なものになりましたので、日本文化を知りたい、見たい、勉強したいと思って時間とお金を掛けてはるばる日本までやって来ても、現存するものが少なくなれば、メーンになる場所は必然的に神社仏閣など一部のものに限られてしまいます。今は、神道や仏教を勉強するだけでなく、それ以外の日本らしさを求める人にとって、神社仏閣はもっと幅広い役割を果たす必要があります。 神社仏閣には、今でも自然な風景や日本庭園が数多く残っており、そのほとんどが木造建築です。とりわけ、神社は海外には存在しない日本独自の建築様式といえます。外装、内装も諸外国とは違って日本独特のものですので、設えとして置かれている諸道具や色彩ひとつとっても、十分な刺激を受けます。運が良ければ着物などの和服姿を見られるでしょうし、神社ならば、ありのままの美しい風景の中で、結婚式や七五三などを目にする機会もあるかもしれません。 これまでの日本の観光は、ある意味修学旅行の延長のようなもので、一生に一度だけ来て、長居することなく、写真を撮って次のところに、といったパターンが多かった気がします。 これからの観光は違うと思います。 今まで通りのやり方では、国内外の観光客は決して満足しませんし、リピートにも繋がりません。 今まで以上に観光客に満足してもらうためには、もっと力を入れるべき分野があります。 それは、展示と解説です。 特に、海外においては、日本文化と日本史、日本の思想を事前に勉強するための十分な資料がありません。外国人観光客は日本の教育を受けてきているわけではないので、実際に文化財を見る目が養えていません。建物の特徴、そこで起きた歴史、内装と外装の模様の意味合い、装束と普通の着物の違い、宗教的な思想など、説明をすればするほど魅力を感じます。ハードも当然ですが、茶道、弓道、流鏑馬、居合、座禅、生け花、着物なども体験したい人は多いでしょう。 遠国から来た人は、当然ながら多大な時間的投資をしていますので、満足のいく経験をして国に帰りたいと思うのは当たり前です。解説もなくお城の内部が空っぽならば、現存するものが少ない以上、その場所の魅力は半減し、本来持つ魅力はほとんど伝わらないと思います。 極論ですが、以前のやり方をたとえるならば、人を自分の家に呼んで、対応することもなく、部屋全体を空っぽにして、家具も調度品も座る場所もなく、ただの建物を部屋の外から一周見て周って帰ってもらうようなものでしたが、おもてなしとは言い難いと思います。これからは、真の対応、本当のおもてなしが必要になると思います。 これからは、日本の人口が激減する中で文化財を維持修理することは、さらに大変になります。サービスを向上させる代わりに対価を求める必要も生じます。当然中身も問われます。簡単に言えば、観光は「人」です。人間のガイド、人による体験などが求められます。安易に看板を建てて、薄い内容の解説で多言語に対応するのは失敗の始まりだと感じます。4ヵ国語で1000字の解説を作るよりは、とりあえずは2ヵ国語で2000字の解説を作成した方がいいと思います。海外においては、一種類だけの拝観料を取り扱うところは少なくなりました。日本でも、混雑時はネット予約した人が少し高い料金を払うことで優先的に入れる制度などを検討されてもいいのではないかと思います。 確かに、宗教施設の拝観料については賛否両論があると思いますが、人口の激減に加えて、氏子壇家さん以外の観光客は必ずしも宗教的な目的で観光しているわけではないので、考える余地はあると思います。イギリスでは、大聖堂はなどが有料になったのは割と最近のことです。長い議論の結果、有料となりました。ローマも有料が多いです。日本人観光客がウエストミンスター寺院に行くときは、宗教的な目的で訪れる割合は果たしてどのくらいあるでしょうか。 これからの日本経済は、観光業が重要な役割を果たすことになります。恐らく、基幹産業のトップ3に入るでしょう。それを実現するには、日本の素晴らしい伝統文化や日本の思想が中心的な役割を果たしていく必要があります。それによって、世界中に日本の共存共栄の心も一緒に伝われば、より大きな影響も期待されます。今後多くの整備が必要ですが、それによって、今の潜在力を発揮して、これまで以上に日本文化のさらなる発展が実現されると祈って居ります。   0013